紙からはじまる新たな生活 – 和紙製法を用いた素材 –

紙という人々の暮らしに寄り添ってきた素材は、現在どのような使われ方をしているのでしょうか。また未来を生み出す可能性はあるのでしょうか。

はじめに

現在、私たちの生活はとても便利なもので溢れています。身の回りで使用されているものの多くが便利なものへと日々改良されていく…そういった時代に私たちは生きています。しかし資源は有限です。そして身体にだけでなく自然環境にもダメージが蓄積して、これからの人類の生活や環境問題を強く考えていく時代でもあります。

そんな中、プラスチックを素材とする製品の見直しなど有限な資源を保つために持続可能な社会をつくる、という動き…サステナビリティが注目されています。これからの未来を私たち人間が考える製品たちで「将来的にもいい状態を保つ」ために日常生活は変えられるのでしょうか。

このページでは“紙”という素材から生活・素材の未来を考えていくきっかけを見つけていきます。

古くて新しい素材!

紙は中国より伝わり日本では和紙として1400年ほど前から使用されてきているとても古い素材です。それが現在では繊維や衣類、建材など様々な製品に使用されています。和紙は丈夫な紙として世界的にも知られています。洋紙やパピルスなどで作られた紙は虫に食われたりして保存できても数百年程度しか持ちませんが和紙は1000年以上その姿を留め保存できることが分かっています。紙からできた糸は昔から着物に使われていて、現在では生理用品をはじめとした製品にも使用されており重要な生活品の一部です。私たちの生活のすぐそばにある紙。書いたり印刷したりする以外の使われ方が提案されていき、更に生活の上で身近なものになりつつあります。

リサーチしていく中で「マニラ麻を主原料とした和紙製品のサステナビリティ性」、「紙の新しい使われ方」に気付きました。特に和紙を素材としてできるサステナブル製品、そこから未来を考えられないか。日本特有の素材で未来を作ることはできないのでしょうか。紙を糸などの繊維に変換したり、紙を布にする……そういった技術から製品を作っている企業を見つけました。私たちの生活のすぐそばにある紙。書いたり印刷したりする以外の使われ方があります。

製品・リサーチ

かみのいと OJO+(オージョ)

王子ファイバー株式会社

抄繊糸(しょうせんし)奈良時代から存在が確認されていた糸を現代の技術でその特徴を持った紙の糸を生み出しています。この糸はマニラ麻の特徴を最大限に活かしたもので、色も豊富です。色味も和紙らしい温かみのあるもので染色されたものも温もりを感じます。かみのいと OJO+はその名の通り糸なのでアパレルから雑貨まで数多くのプロダクトに使用されています。様々なブランドに採用されており、多種類の商品が展開されており世界から注目されています。

詳細は下記URLよりご参照ください。

紙から生まれた【かみのいと OJO⁺】| 王子ファイバー

「抄繊糸(しょうせんし)」と呼ばれ、日本では既に奈良時代に存在し、実は麻や綿よりも古い歴史を持つといわれる「紙の糸」。 王子ファイバーは、すぐれた特性を持ちながら、量産がむずかしく、高価であったこの「紙の糸」に着目。紙に携わってきたノウハウをもとに、先端の設備と新技術により、独自の生産体制を確立。環境と肌へのやさしさはそのままに、最高の品質と利用しやすい価格の天然繊維「かみのいと …

和紙布(わしふ)

細川機業株式会社

ITOI生活文化研究所

ORIGAMIX(オリガミクス)のプロジェクト製品は、ITOI生活文化研究所が開発した特許製法の和紙布の量産を手がける富山県の細川機業によって、和紙布の機能性を最大限に活かすことをコンセプトとしてデザインされています。この和紙布は、マニラ麻からできた和紙をスリットし、それを「こより」のようにまとめることで糸を作ります。できた糸は伸び縮みはすることが少ないですが、布になるときは多少の伸縮性をもちます。これによって“紙”という素材が“布”になったときに着用する着心地になっていきます。肌に優しい素材なので環境だけでなく身体にも優しい素材かつ製品になります。この和紙布の特徴は通気性、速乾性でシューズを履くことで蒸れること無く快適に、まるで裸足で歩いているかのような歩行体験が可能です。

ITOI生活文化研究所のプロダクトの理念の1つ「肌に密着する内側は100%和紙である」というものがあり人の肌にも、そして環境にも優しいプロダクトを生み出しており、この布が使われた製品は正にそれが叶えられたものです。この布を量産化するまでのきっかけを細川機業に伺ったところ、㈱ITOI生活文化研究所の方から「シューズ用途として開発した和紙布の量産ができる工場を探している」と相談をうけたことがはじまりでした。和紙布と一口に言ってもその製造過程は技術的にも難しいことが多く、「伸度が全く無い」という紙の特徴から非常に扱いにくい糸であるそう。しかし様々な素材を扱ってきた細川機業の経験から織り方を工夫し、紙の伸度の無さを克服した和紙布です。この和紙布の量産は技術的にも非常に難しいそうですが、細川機業さんは高い技術を持っており実現できたそうです。また実際にITOI生活文化研究所が開発した和紙ソックスのサンプルを履き、機能性を実感したことが量産へのキッカケだそうです。この布を作るには様々な技術が必要で、それを実現するために日本の匠の技術が最大限に詰め込まれ、活かされています。世界が注目している布で、たくさんのブランドがこの布で製品の開発をしています。

お話を伺ったとき、「足育」という言葉を教えていただきました。これは特に子育ての面に向けられたワードだと思いますが、素足と自然が触れ合うこと自体が豊かな生育に繋がると考えていました。和紙布を使ったスリッポンは2018年グッドデザイン賞も受賞されており、正に未来を担う素材・製品です!

またこの素材を開発しているITOI生活文化研究所の方からお話を伺うことができ、たくさんの素材の情報をいただきましたので別の記事で詳しく紹介したいと思います。

和紙布になるまでの和紙繊維たち

ORIGAMIX | 和紙布の機能性を追究した、オリガミクスの裸足で履ける和紙布スリッポン

ORIGAMIX(オリガミクス)とは、その名の通り「紙」を「織る」ことで機能性に優れた布素材(和紙布=わしふ)を生み出し、製品化するプロジェクト。1891年に創業した富山の織物工場、細川機業のファクトリーブランドです。製品第一弾は、「裸足でもさらっと履ける和紙布スリッポン」。

ITOITEX | 和紙布・和紙糸の機能性を世界へ発信する和紙繊維ブランド

The nature is the best 健康的で環境に優しい 新たなライフスタイルを楽しもう 創業者 和紙布研究家 …

naoron(ナオロン)

紙和(SIWA)

こちらの素材はマニラ麻が原料ではないですが、非常に丈夫であるという点からこの記事で取り上げています。山梨県市川大門の和紙漉き技術を引き継いだ伝統的かつ新しい紙素材で和紙の風合いが残る素材です。和紙の風合いが残りながらも水に強く破れにくい特徴を持っています。紙なのに水に濡れても大丈夫な耐水性、破れない強靭さ、紙でできているからこその安心もある製品です。ナオロンを使った製品は使い込むことで自分に馴染んだプロダクトになっていくのも特徴のため生活に取り入れるだけで未来が楽しくなるかもしれません。

ソフトナオロンとハードナオロンの2種類があり、特にポリエステルを100%、そのうちの60%にリサイクルされたペットボトルの再生繊維を織り込んだハードナオロンは環境に優しい素材で、素材感としては紙と布との中間といった感じで加工には縫製技術が使われている製品が多いです。

詳細は下記URLよりご参照ください。

SIWA | 紙和 公式ウェブサイト

日常使える和紙製品のブランド、SIWA。千年の歴史ある和紙の産地で1つ1つ丁寧に作っています。

マニラ麻

このページで何度も登場したマニラ麻、強いエコロジー性を持つ繊維素材です。フィリピンの首都であるマニラが原産地のバショウ科バショウ属の植物ですがエクアドル産のマニラ麻が1番しっかりと管理されており、品質も良いと多くの企業が採用しています。マニラ麻、と一口に言っても大きな括りとして分けられているため細かく見ていくとバナナ科だったりするものもマニラ麻と呼ぶくらいその許容範囲も広く多年草で苗から3年ほどで平均まで成長します。育成コストも低く環境に優しい素材として注目されています。繊維自体がしっかりしているので虫の被害に合いにくく、耐水性にも優れている植物です。繊維材料の中でも特に強固な素材であるマニラ麻、これは私たちの身近で使われていて、分かりやすいところで言うと紙幣や封筒です。水に濡れても破けにくく劣化をあまり感じません、それがこの麻の強さです…!

【 マニラ麻を繊維に作られた素材の代表的な特徴 】

  • 耐水性がとても高い!
  • 虫に食われにくい!(防虫効果)
  • 二酸化炭素の吸収率がすごい!

これだけ繊維として優れたマニラ麻を使った和紙製品は上記で紹介したもの以外にたくさんあるので、みなさんも探してみてください。和紙製法を活かした素材の中にはサステナブルを意識した製品が多く自分にも環境にも優しい未来の当たり前の生活になるかもしれません。

実際にさわってみる

ナオロン

ナオロンサンプル

ハードナオロン:見た目は本当に和紙のような感じです。正に紙でした。自然素材から作られている紙由来のあたたかな色味も特徴的です。さわり心地は紙そっくりで、紙としては丈夫で硬い紙のような感じです。しかし段ボールや画用紙のような曲がりにくさというわけではなくしなやかなものです。この紙布が100%ポリエステル、そのうち約60%がリサイクルされたポリエステルからできたもの…というのが驚きです。ハードナオロンは折れ曲がることが無い、その硬さを活かした製品にピッタリな素材であると思いました。

ソフトナオロン:見た目はハードナオロンとあまり変わりありません、しかし実際に触ってみるとその違いはハッキリと分かるものでした。ハードナオロンよりさわり心地が良かったです…!!皮のような質感でした。「ソフト」というだけあってとても柔らかくてずっと触っていたような感覚…布の時点で気持ちいいです。使い込むことで自分だけのシワができる素材だと思いました。

和紙布

 シューズ用和紙布の裏(右下角)は肌に触れるためほぼ100%天然素材

シューズ用の和紙布:さわり心地はスリッポンの布であるなら他のシューズ素材と変わらない気がしました。聞くところによると染色するにも他の布と遜色ないくらい。丈夫なのは触った瞬間に分かるくらいしっかりした布でした。吸水率も素晴らしく蒸れない靴、足に熱がこもることがないそう(さすがに水に濡らしてしまうことはできませんでした……)

和紙布でできた靴下:「裸足で砂浜を歩いている感触」と紹介いただいただけあり、実際にこの靴下と和紙布でできたシューズを履いて出掛けたときにとても気持ちい外出ができるのでは、と想像を巡らす程!!

古い素材が未来を生む

プラスチック素材が問題視されていますがその素材が今まで作ってきた現代は便利な時代であることに変わりはありません、一方で地球環境改善のサイクルが今できていることも確かです。ここで取り上げた紙たちは天然素材からなる素材であり、今では和紙製造過程で生まれる繊維たちは様々な加工品へと変化されています。 

そしてマニラ麻は日本では古くから親しまれており、現在はエコロジー素材として世界から注目されている繊維素材の1つです。3年という期間で成長しサイクルを生み出せることから木材などの間伐問題の改善も可能性にあります。この素材…ひいては紙という素材は地球環境の保全以上の効果に繋がっていくのではないのでしょうか。紙でできた服は、もしかしたら日本だけでなく世界的に当たり前になっていくかもしれません。紙でできた糸も、布も同じことが言えると思います。世界に注目されています。

日常にある製品の素材を少しずつ優しいものへと変えていくことで私たちの未来もデザインできると考えています。 

( 執筆者:前川 咲貴 )

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