現代の紙のありどころ

デジタル化が進んだ現代では、書籍を中心に紙媒体の需要が希薄になっています。紙の存在意義はどこにあるのでしょうか?

紙の現状

紙とデジタル

ペーパーレスが実現し、印刷や配布、紙の保管のコストが減ると予想されましたたが、紙の全体使用量はさほど減少していません。しかし、需要がある用途のシフトチェンジは確実に起こっています。新聞巻取紙、印刷用紙は減少傾向にあり、ペーパーレスの時代の影響を多分に受けていますが、同時にペーパーレス化に伴ってウェブ媒体での売買が増え、それを配達する際に必要なボール紙の需要が急激に増加しています。

https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwiHgNXgg5vqAhXQfXAKHYmdANkQFjAJegQIBRAB&url=http%3A%2F%2Fwww.mlit.go.jp%2Fcommon%2F001198493.pdf&usg=AOvVaw2dJOzN-NW_MEt3JQdzCfTj

紙・パルプ 国土交通省

こう言った時代の変化とともに紙の活用方法も変化し、それに伴った新たな素材で作られた紙も増えてくることでしょう。

この記事では紙がどんなところに実際に使われているのか、また使われていくのか、製品、建築、空間、アート、など様々な視点から見ることで未来の紙のありどころを見据えていきます。

リサーチ

リサーチ:段ボール編

まずは先ほど話にも上がった、ボール紙について調査を行いました。キーワードは「アップサイクル」「プロダクト」です。

やはりボール紙はダンボールに使われることが多く、その廃棄量に懸念があります。アップサイクルすることで廃棄問題を解決する思考が多く見受けられ、また、本来のボール紙の特性である丈夫さや特有の色の温かみなどからプロダクト製品として展開していくことがわかりました。

1.KARTENT

KARTENTはダンボールで作られたテントです。公式のサイトではレジャー用のテントとして扱われており、組み立ての容易さ、段ボールの特性を生かした遮光性と保温性による快適な睡眠、使用後のアップサイクルの可能性や廃棄の際の環境への配慮をメリットとして紹介しています。実に合理的なプロダクトであり、さらには紙であるがゆえに外側にペイントもでき、クリエイティブな側面もあります。心配される防水性も表面に特殊な加工を施すことで解決しているようです。

Info | KarTent

The KarTent is your friend. Simple as that! Big enough for two people it has all the qualities needed to bring your festival to the next level! We will bring your karTent to the festival for you! This means you don’t have to carry around with heavy stuff!

2.「Carton展 湘南で拾った段ボールコレクション」

Carton展は湘南で拾ったダンボールのプロダクト展およびワークショップのプロジェクトです。

もともと、「Carton」は代表の島津冬樹さんが立ち上げた財布ブランドからきています。ダンボールの魅力から大切なものに気づく、アップサイクルのワークショップを通して世界と、人と繋がる。ダンボールがダンボールとして機能を終えることで生まれる付加価値が、人の心を動かす”場”として存在意義を見いだしています。

不要なものから大切なものへ 世界中の落ちている段ボールから財布を作る活動をしています。役目を終えると捨てられてしまう段ボール。しかしよく見てみると豊富なデザイン、国ごとの違いなど、奥深い点がたくさんあります。そんな段ボールの多様性や魅力を「財布」という身近なものを通じて、少しでも気づいてもらえたらと思っております。

「湘南で拾った段ボール」で作ったプロダクト展、ワークショップも

2015/08/01 2015年8月1日(土)から8月22日(土)まで、 神奈川・ 藤沢の「湘南T-SITE」にて「 Carton展 湘南で拾った段ボールコレクション 」が開催されます。 …

Carton – 段ボール財布

ONE MANS TRASH IS ANOTHER MANS TREASURE. EVERYONE KNOWS CARTON IS TOUGH AND HANDY, BUT ON THE OTHER HAND, YOU MIGHT HAVE SEEN THEM AS SCRAP AND GOTTEN AN IMAGE OF DIRTY GARBAGE. WHAT KIND OF STORY, HOWEVER, DOES THE CARTON HAVE INSIDE?

4.東京オリンピックのベッド

大会オフィシャル寝具パートナーの「エアウィーヴ」は、選手の睡眠環境の改善のため機能性寝具が選手村に導入されました。

マットレスは選手の体型や体重によって、肩・腰・脚、それぞれのマットレスの硬さを調整できるのも特徴のひとつです。また、掛け布団には羽毛ではなくポリエステルを用いるなど、環境にも配慮した素材を使用していて、ベッドフレームには「段ボール」を採用しています。

種目によってそれぞれ体型が異なるスポーツ選手のために身体の中でも特に重い肩、腰、足の部分に合わせて、マットレスを硬さごとに3分割しており、 選手村到着後、選手は自身にぴったり合った寝具パターンのデータを入手し、身体の各部位にかかる負荷に細かく対応するべく、3つのマットレスを自分で組み替えてカスタマイズすることができます。この組み替えを容易にするため、マットレスを薄くして軽くする分、ベッドフレームの強度を増す必要がありますそのため、木に代えて段ボールを採用し、内部の梁を増やすことで、ベッド自体の耐久性を増やすとともに、かかるコストを抑えています。また、段ボールを用いることで、サステナビリティの点にも目配せしています。

マットレスは両面硬さの異なる3種類のパーツがあり、例えば水泳選手のような肩幅の広い逆三角形の体型の選手には肩周りを柔らかくし、体重が100kgあるような大柄の選手には腰の部分を硬くするというような体型にあったカスタマイズができます。

東京五輪選手村のベッドは「段ボール製」!? 実は睡眠の”選手ファースト”が考え抜かれていた

選手村で使われるベッドは段ボール製で200kgの荷重に耐えられる マットレスは選手の体型によってカスタマイズできる エアウィーヴ社長「メダルにも影響するでしょう」 …

リサーチ:その他紙編

ボール紙から視野をさらに広げ、従来の紙の用途である、包む・記録する以外の用途を持った、あるいは紙の特性を突き詰めた素材・製品の調査を行いました。

素材編

1.タイベック 

不織布の一種で紙のような布のような素材です。高密度ポリエチレン不織布で 0.5~10 ミクロンのポリエチレンの極細長繊維をランダムに積層し、熱と圧力だけで結合させています。

バリア性、丈夫さ、快適性、低発塵性、透湿・防水機能などなど生かし防護服の素材として扱われています。

タイベックとは? │ 旭・デュポン 建築資材

0.5~10ミクロンのポリエチレンの極細長繊維をランダムに積層し、熱と圧力だけで結合させたシート(不織布)です。 米国 デュポン社が開発したこの独自の構造により、優れた透湿・防水性能を有し、抜群の強度と耐久性能を保持することが可能になりました。 …

2.MAPKA

紙パウダーを主にポリオフィレン系樹脂と配合したプラスチックの代替え品として開発された新素材です。

新素材紙パウダー MAPKA|株式会社 環境経営総合研究所

紙パウダーを主原料にポリオレフィン系樹脂をバインダーとして、ペレット化。射出成形、押出成形、シート成形、サーモフォーミングによる成形など、従来のプラスチック材料と同様に成形できる素材として開発されました。お客様の目的により、用途は多岐にわたります。 MAPKAは主原料である紙パウダーを含有したエコ素材で石化資源を製品として半減(削減)できるだけではなく、原則MAPKA …

4.紙のミルフィーユ 

紙を何層にも重ね、紙の温かみとアルミや木に変わるような強度をもつ新素材を使ったブランドです。 

紙のミルフィーユ

紙を幾重にも重ねた新素材による製品ブランド「紙のミルフィーユ」のウェブサイト。「紙」の温もりを持つこの素材を使ってデザインしたノートやメモ、手帳などをラインナップしています。


プロダクト編

1.SIWA 

和紙の時計など、今までに紙が使用されていなかった範囲のプロダクトに着目したブランドです。 

about SIWA | 紙和

Naoron is a new paper-like material developed with the traditional washi-suki papermanufacturing technique, by the Japanese paper maker ONAO based in the Ichikawadaimonarea. It is soft to the touch, light and flexible, yet very strong. The material is also superior inwater resistance and durability that does not tear easily.

2.チューブ紙パウチ 

本来プラスチックで作られているパウチの部分を特殊な加工を施した紙で製品化する事により、分別のコストや、使用する際の改善を見出した商品です。

凸版印刷、紙素材を使用したチューブ型パウチを開発

凸版印刷株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:麿 秀晴、以下 凸版印刷)は、消費者の利便性向上と、省資源化による環境配慮を両立し、チューブの使いやすさとパウチの絞り出しやすさを両立させた新機能パッケージ「チューブなパウチ」を開発、2020年4月より販売を開始しました。  このたび、「チューブなパウチ」の胴部に紙素材を使用した「チューブな紙パウチ」(以下 …

3.ペーパーファニチャー 

不要な紙やダンボールなどで作られた椅子です。いわゆるアップサイクルの概念を用いて、廃材としての紙を繊維まで分解して再利用することなく、使用感や印刷の味を活かして製品化しています。

Original handmade collectible paper furniture by KIBARDIN

During these difficult times, we are not defined by demographics or geography. We have shared ideals, dreams and a vision for a new reality. We together can advance culture. In a world where many people make do with old solutions, progressive people focus on the future.

4.paperable 

『単純に要件を伝えるための道具ではなく、送る人と受け取る人、書く人と読む人をつなげ、豊かな時間を演出するコミュニケーションツール』というコンセプトで展開しているブランドです。現代において紙という「物質」である以上、その特性によって人は道具としての価値以上に何らかの価値を見出します。

KamiPLAY(カミプレ)

「心にひびく紙のもの」をテーマに、紙と正面から向き合い、紙を楽しみ、紙に活かされ、紙を遊びきる、純粋で真面目なプロダクト。音楽が人の心を鷲掴みにするが如く、カミプレは人の心にダイレクトに訴え、心がゆたかになるような道具となっていきたいと考えてます。

5.「MEETS TAKEGAMI」

日本の竹でつくられた紙・竹紙のプロダクトブランドです。元々竹の繁殖力は凄まじく、大量に消費しやすい紙という製品においてメリットを生み出しやすい植物でした。しかし現状紙の生産量が減っていく中、今度は竹で作る紙というものに着目して展開していきます。

日本の竹でつくられた紙・竹紙のプロダクトブランド「MEETS TAKEGAMI」 | Swings

民芸品などに使われることが多く、日本の代表的な植物ともいえる「竹」。しかしその繁殖力はすさまじく、その成長の速さゆえに沢山の竹が行き場をなくしているのが現実です。 1947年創業の、総合製紙メーカー 中越パルプ工業株式会社 は、1998年より使われなくなった丈の有効活用に取り込み、日本の竹100%の「竹紙」を製造しています。 …

物編

1.坂 茂

紙の建築で有名で被災地の「紙の間仕切りシステム」は革新的なアイデアとして今も活躍しているデザインです。

坂茂建築設計 | Shigeru Ban Architects

坂茂建築設計 / Shigeru Ban Architects

2.日比野克彦

代表作「PRESENT AIRPLANE」

アップサイクルを活かして作品を作っています。段ボールの温かみや使い古した生活臭、印字で残る強烈な生活感は新しく作品に生まれ変わった段ボールにもどこか日常の延長線として感じられます。

Home

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3.浜井浩司

イッセイミヤケの元で活動のち独立。繊維から考えた衣服を作っています。中には和紙で作る鞄や衣服をデザインしています。

取材

島津冬樹さん

前述した「Carton展」のプロジェクトを立ち上げた島津さんに、プロジェクトについてや、段ボール紙のこれからについて伺いました。

Q,ワークショップを通して得られた段ボールへの新しい視点はありますか?


A,まず、ワークショプは自分にとっても発見の場だと思っています。
例えば、普段は自分一人で財布を作っているので、どこを切り取って表にするか、といったトリミングは自分のみの判断になりますが、ワークショップでは意外なトリミングをする方も多く、刺激になります。また、中には、さらにこうしたら使いやすそう、等工夫される方もいて勉強になります。

COIN WALLET

Q,ワークショップを通して得られた世界の人々の考え方やコミュニケーションでの気づきはありますか?


A,ワークショップを受ける姿勢かなと思います。日本やドイツなどでワークショップをすると、しっかり次の手順まで待ち、順当に進めることができますが、アメリカで開催すると、多くは皆説明する前から作り始めたり、どんどん先へ進んでいきます。
そのアグレッシブさも国によって違うのが興味深いなと思います。

ただ共通していえるのは、多くの国の人は段ボールをなんとも思ったことはないので、財布など、使える形になることに驚いてくれます。

最近では中国での展示が多く、国内でのソーシャルデザインへの興味の高さが伺えますが中国国内ではWeChat Payといった電子取引が大半を占めるため財布を全くといっていいほど使いません。こういった財布の需要が国によって違うのも興味深いところです。

 
Q,現代ではデジタル化に伴って、紙の需要が減ってきていると捉えられていますが、ネットショップの利用率に比例し、ボール紙の需要は増えている、など紙の在りどころが変化してきていると考えています。 島津様は紙、特に需要が増えているボール紙は、これからどのような用途・目的になっていくと思われますか?


A,まずなくなることはないかなと思っています。
段ボールはその半分以上を回収した段ボールからリサイクルして作られています。
軽くて丈夫で、リサイクルがしやすい、これほど効率的な素材の代替品はまずないでしょう。
近年は災害地での仕切りや、オリンピックのベッド素材など、用途の幅はどんどん広がっています。
この先単なる箱ではなく、住居含め身の回りの様々なものに段ボールが隠されていることもあるかもしれません。

ちなみに個人的には段ボールより先に財布が廃れていくと思っています。
前述した中国のように、世界的にも電子決済が主流となり、財布はよりコンパクトに、次第になくなるでしょう。コロナの影響でその流れは加速すると思います。

ご自身の活動の在り方から今後の紙の行く末についてお伺いしました。中には興味深い話が多く、特に中国では電子決済が主流になっている、コロナによってその波は加速するというのは鋭い洞察だと感じました。しかし、だからといって紙が未来から消えていくわけではなく、人々のコミュニケーションツールでありつつ、新たな用途に広がっていくと考えられそうです。実際に、このお話を伺ったのはメール上のことですが、島津さんのお話を聞けたのは紛れもなく紙のおかげであるのは、紙の広がりに可能性を感じざるを得ないですよね。

引用:http://carton-f.com/


株式会社竹尾さん

次は筆者が予備校時代にお世話になった竹尾さんに製品の紹介や紙を扱う会社としての視点をお聞きしました。

Q,貴社の製品、アイデア、または技術で、「これから」のニュースタンダードになる、
と考えるものはありますでしょうか。ご紹介とともに開発に至った原点などがあればお教えください。

A,弊社の新しい取り組みについてご紹介させていただきます。
「ファインフルート」「ファインモールド」
https://fineflutefinemold.com/
弊社の展示会「竹尾ペーパーショウ」の2018年開催の際に制作・展示したものを事業化したものです。
段ボールやパルプモールドにファインペーパーを使用することで新たなパッケージの可能性を広げたいと考えております。

ファインフルート

ファインモールド

「スタッキングペーパーリッド」
https://stackingpaperlid.com/
脱プラ化への取り組みとして紙カップにセットして使用することのできるペーパーリッド(紙製のフタ)です。
こちらは2006年のペーパーショウで柴田文江さんが「インダストリアルと紙をつなげる」のテーマで出展したものを日本デキシーと竹尾が製品化したものです。

「ヴァンヌーボLT-FS」
https://www.takeo.co.jp/news/detail/003102.html
需要の伸びているデジタル印刷(版を必要としない印刷)専用紙です。
デジタル印刷に必要な機能を備えつつ、“ラフ感”とオフセット印刷に近い“グロス感”を実現します。

Q,現代ではデジタル化に伴って、紙の需要が減ってきていると捉えられていますが、ネットショップの利用率に比例し、ボール紙の需要は増えている、など紙の在りどころが変化してきていると考えています。
貴社は紙のこれからについてどのような視点をお持ちですか?特に、デジタルと紙の関係性についてどう思われていますか?

A,確かに紙の需要は変化しておりますが、社会の需要に対応すべく様々な取り組みをしております。
2に挙げた取り組みもその一部です。

様々な取り組みを行っている竹尾さんですが、竹尾さんが制作している紙に触れる場として見本帖という場があるそうです。東京は三店舗、大阪、福岡に一店舗あるそうです。後期は実際に見本帖に伺うことになりました。

引用:https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwiU8Ku6z8_qAhWJfXAKHbPZBAwQFjAAegQIARAC&url=https%3A%2F%2Fwww.takeo.co.jp%2F&usg=AOvVaw1wPhwN1SkCkIAZrLCz_CAx

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