素材でみるサステナブルファッション

はじめに

 今のファッション業界で何が起こっているか皆さんご存知ですか?大量生産大量消費の横行により、安く手に入るファストファッションの流行や万年セール状態を作り出しています。流行の服を安価な労働力・チープな素材で製作し、そのシーズンのみに売り出し、また次のシーズンには新しいものを生産し売り出す。そうなるとシーズン毎に売り切らなくてはならなくなり、どうしてもセール価格で販売せざるを得なくなります。すると消費者は、ものの価値をしっかり見極めることなく購入し、流行が過ぎれば捨て、また新しいものを購入する。そんなことでは持続可能な業界としてファッション業界は成り立っていきません。現在、アパレル業界で在庫の大量廃棄が問題になっています。日本だけでも年間100万トンもの服が廃棄されており、中には一度も消費者の手に渡らずに処分されるものもあります。

素材からサステナブルなファッションを考えよう

 今回はサステナブルという視点から、ファッションに使われている”素材”に注目しました。今ファッションの業界でも様々な素材が開発され、私たちが暮らす未来を少しでもより良くするために、実践的に使用されはじめています。今回は素材の視点で見たサステナブルファッションについて紹介していきます。

●BREWED PROTEIN(ブリュードプロテイン)

 まず紹介するのは、日本のベンチャー企業 スパイバー がクモの糸から着想を得て開発した人工タンパク質『ブリュードプロテイン』です。『ブリュードプロテイン』の大きな特徴としては、主原料が微生物による発酵プロセスを用いて作られているところです。今多くのファッションアイテムでは、ポリエステルやナイロンといった合成高分子材料が主に使用されています。これらは石油を原料としていますが、石油は50年後に枯渇する可能性があると言われており、持続可能な素材とは言えません。そこで、それに代わる素材として『ブリュードプロテイン』が挙げられます。この素材の優れているところは、クモの糸といったタンパク質は持続可能な資源な上に、ナイロンのように伸び縮みし、鋼鉄の340倍強靭であるという点です。今日のファッション業界で最も注目されている新素材の1つであり、YuimaNakazatoの2019A/Wコレクションでは、『ブリュードプロテイン』を使用したコレクションを発表、sacaiでは2020S/SのランウェイでコラボしたTシャツを発表、2020年春に発売しています。

Spiber株式会社

Spiber株式会社 – 微生物発酵プロセスによりつくられるタンパク質素材(ブリュード・プロテイン™)の開発を通じて、サステナブルな社会の実現のために地球規模の課題に取り組む。

●WASHI FABRIC(ワシファブリック)

 次に紹介するのは天然繊維の和紙で作られた、『WASHI FABRIC』です。様々なアパレルのブランドを手がける マッシュホールディングス が和紙の天然繊維を使用した肌着のブランド アンダーソンアンダーソン を2019年新たに立ち上げました。この『WASHI FABRIC』は”日本で一番古い新素材”をキャッチコピーとしており、日本古来の 和紙 という伝統的な素材に最新の技術が加わることで生まれた新素材です。使い続けることで、肌に馴染んでいく和紙は、肌着にとてもぴったりだと言われています。使用されている和紙の原料には、管理された森林より採取された木材を使用しており、生産・加工の工程も環境保全に配慮した地球に優しい素材になっています。またこの素材は環境に優しいだけでなく、日本の古い技術に最新の技術が加わり新たに生まれ変わるというプロセスが、伝統を守っていくことにも繋がっていくと考えられます。

WASHIFABRIC 日本古来の伝統と特許技術が紡ぐ新素材。 |【公式】UNDERSON UNDERSON(アンダーソン アンダーソン)

管理されたカナダの森林に育ち、 環境に配慮した生産・加工の工程から生まれた地球にやさしい和紙。 これを薄く漉き、細く長く裁断したスリットから糸を紡ぎます。 この糸を、特許技術を用い、世界に1台しかない機械で、縒(よ)りあわせることで、 肌あたりに優れたオリジナル和紙布ができあがります。 この背景には、和紙の多面的な魅力に惹きつけられ、16 年の歳月をかけて 和紙から1 本のしなやかで頑丈な糸に紡ぎ上げる製法を考案した、 ITOI 生活文化研究所代表の糸井徹氏の存在があります。 軽くて強く、調湿機能に優れ、生分解作用も備えた和紙の特性を活かし、 より心地良い和紙糸・和紙布づくりを探求。 これまでの和紙糸にはなかったゆたかな伸縮性と強度を維持する特許技術を生み出し 長時間身につける肌着に最適な、心地よさとフィット感が実現しました。 1500年もの昔から続く伝統素材と、最新の特許技術による でできた肌着は、暮らしを心地よく快適に支えます。

●APPLE SKIN™️(アップルスキン)

  続いては、イタリア北部の食品産業のために栽培されたリンゴの廃棄物から作られた『APPLE SKIN™』を紹介します。


https://lovst-tokyo.co.jp/company/ ラヴィストトーキョー株式会社

 産業廃棄物であるリンゴの芯や皮の部分を粉末状に加工しポリエステルで固め、コットンポリエステル地をコーティングして作られる、レザー調に仕上げられた新素材。アパレルのみならず、海外では家具や車内シートにも使われています。イタリアのFruma社が開発しました。イタリア北部は世界でも有数のリンゴ産地です。同社のCEO ハンネス氏の食品加工業から大量に廃棄される産業廃棄物を有効活用したいという思いから生まれました。まず開発されたのが レザーではなく紙である「アップルペーパー」です。ティッシュやクラフト紙などの様々な製品化に成功しました。その後、リンゴの活用の次の試みとして植物性の接着剤の研究をしていましたが、今度はあまりうまく行きませんでした。しかし、その副産物としてアップルスキンは生まれたのです。アップルスキンは、本来産業廃棄物であるリンゴの芯や皮を使用しており、リンゴの生産量が多い地域での開発だったため、原料の調達から製作まローコストで作ることを可能にしました。およそリンゴの繊維20~50%、ポリウレタン50~80%で構成されています。このアップルスキン見た目がレザーっぽいだけでなく、性質も似ていることが代替品としての可能性を秘めている大きな理由です。その性質とは「耐水性」です。そのため、バックやシューズ、アパレル製品だけでなく、家具などに広く使用され始めています。

https://lovst-tokyo.co.jp/company/ ラヴィストトーキョー株式会社

LOVST-TOKYO

イタリアのFrumat社が開発した、産業廃棄物であるリンゴの皮や芯の部分を加工してレザー調に仕上げた新素材「アップルスキン」。アパレル商品に留まらず、すでに海外では家具や車内シートなどにも用いられ注目を集めている。今回はそんな汎用性の高いアップルスキンの特徴をご紹介していきたいと思います。 第三弾で紹介した 「ピニャテックス」 …

サンプル写真はこちら↓

●Piñatex®(ピニャテックス)

 次に紹介するのは、パイナップル農家から出た副産物であるパイナップルの葉の繊維から作られる天然素材『ピニャテックス』です。

https://lovst-tokyo.co.jp/company/ ラヴィストトーキョー株式会社

 はじまりは1990年代。革製品のエキスパートであるカルメンが大量の皮革生産と化学的ななめしの環境への多大な影響を問題視しており、皮の持続可能な代替案を探していました。その時にパイナップルの繊維と出会い、『ピニャテックス』は誕生しました。原料であるパイナップルの葉は、本来収穫の際に捨てられるものなので、追加の環境資源を必要としないため、環境にとても優しいです。葉からとれる長い繊維は、角質除去というプロセスで抽出されます。そこで一度不織布になり、そこからスペインで特殊仕上げを施されることにより、皮のような外観が生まれます。柔らかく柔軟で、非常に丈夫。質感はまるでレザーのようです。繊維が取り除かれ残ったバイオマスは栄養豊富な天然肥料やバイオ燃料として使用可能であり、有効に活用されており、生産過程でも無駄がないことも注目されている1つの理由です。また、『ピニャテックス』を開発している会社は地元の農業協同組合と協力して、パイナップル農家に『ピニャテックス』による新たな収入源を生むことで、農村コミュニティを支援する活動も行なっています。本来ゴミであるものに付加価値をつけることで、新素材を開発するだけでなく、作る過程のゴミもエネルギーとして利用し、またその地域に新たな雇用を生み出している『ピニャテックス』。サステナブルな新素材のお手本とも言える素材ですね。より広がっていくことを期待します。

サンプル写真はこちら↓

https://lovst-tokyo.co.jp/company/ ラヴィストトーキョー株式会社

LOVST-TOKYO

「ピニャテックス(Piñatex®)」とは、パイナップル農家から出た副産物であるパイナップルの葉の繊維から作られる革新的な天然素材です。本来廃棄されるだけであったパイナップルの葉を有効活用したことにより、ピニャテックスはパイナップル農家に新たな収入の流れを作り出しました。今回は、ナチュラルでサステイナブルな新素材、「ピニャテックス」に注目していきたいと思います。 …

●Muskin(ムスキン)

 続いては、キノコでできたレザー『Muskin』の紹介です。 開発したのはイタリア・フィレンツェにある Grado Zero Espace というテキスタイル・イノベーションを掲げる素材開発の企業です。ウェアラブルなスマート・マテリアルから、バイオテクノロジーを駆使した素材まで、幅広く開発を行っています。そんな会社が、牛革などのアニマルレザーに代わる新しい素材を開発。「野菜からつくる環境に優しい素材」として生まれたのは、きのこのレザー『Muskin』です。きのこを培養して作られる代替レザー『MuSkin』は、きのこの一種の寄生菌の細胞から作られています。もともと生物である『Muskin』は、「完全に土に還る」ことができます。またそれだけでなく、“呼吸”しているのです。その“呼吸”がバクテリアの増殖を抑えることにより、足の匂いや汗を抑える効果があるといいます。また、そのままだと防水性はありませんが、ワックスを使った加工でその問題も解決します。簡単に自由に変形できるため、端材が出ることも少なく、なめしなどで環境に負荷をかける事も少ないので、作られる過程も環境に優しいと言えます。また、質感も好きなように変化させることができ、手触りはラムレザーのように柔らかです。現在、多くの企業がキノコを利用した製品の開発に力を入れており、『Muskin』はその1つと言えます。本物のレザーの質感を再現しつつ、菌による消臭効果もあり、なおかつ環境に優しい。『Muskin』はこれからレザーの代替品として大きく注目を浴びていくでしょう。

MuSkin – samples and small production amounts

DISPLAY INFO AND FAQ ABOUT MuSkin MuSkin is a 100 % vegetable layer alternative to animal leather. It comes from the Phellinus ellipsoideus, a kind of big parasitic fungus that grows in the wild and attacks the trees in the subtropical forests.

●ECONYL®(エコニール)

 最後に紹介するのは、海洋汚染の大きな原因とされているプラスチックごみでつくられた革新的な再生ナイロン『エコニール』です。イタリアの素材メーカーアクアフィル社が開発しました。漁網やプラスチックゴミを100%リサイクルして作られた再生ナイロンで、繰り返しリサイクルが可能なエコ素材です。ナイロンは軽く伸縮性に優れており、水にも強く、現在様々なファッションアイテムに使われています。しかし原料が石油であるため、あまり持続可能な素材であるとは言えません。そこで今、ナイロンの代わりとして注目されているのが『エコニール』です。最大の特徴はクオリティはこれまでのナイロンと変わらないところです。フィット感や、吸汗速乾性に優れているので、スポーツウェアなどでも多く使用されています。また、繰り返しリサイクルできるため、廃棄を減らす事もできます。新たに原料を必要としないので、環境に優しく作ることができます。漁網やプラスチックゴミを回収して、作られているため、これを採用することで海洋環境保全の貢献にもつながります。レジ袋廃止など、今大きな話題になっているプラスチックゴミ。『エコニール』が使われている服を選ぶことが、海洋ゴミ問題を解決する一歩になるかもしれません。

無限リサイクルが可能に カルト的人気を誇るプラダのナイロンが新素材へ

Courtesy of Prada いかにエコロジカル・フットプリント(人間がどれだけ自然環境に依存しているかを示す指標)を減らすかということが、ファッションブランドの喫緊の課題となっているなかで、 Pradaはリサイクルナイロンの新プロジェクトを立ち上げた。 2018年秋冬コレクションでミウッチャ・プラダがナイロンバッグを復活 …

服の作り方・買い方が変わってくる

 このように今サステナブルに対して、意思表示をした服作りをするブランドが増えてきています。持続可能な素材、製法、ショーのあり方などを自分たちなりに表現をしています。そんな中で消費者も自分たちが購入する際に厳しい目で商品を選び、よりサステナブルで長く使える服を選ぶようになってきていると感じます。明確なビジョンを持って生産・販売し、買い手がきちんと意志を持って購入するような、買い方売り方にこれからの時代は変わっていくのではないでしょうか。

 そのためにまずは本当に気に入ったものだけを買う、ということが大切です。本当にその服は必要か、惰性で買っていないか、買ってもその服を着るかをよく考えて購入しましょう。そして次に、その買った服を大事にするということです。扱いを少しでも丁寧にして、長持ちさせる。少し壊れても、自分で直す。そのためにも長く愛せる服を購入することが大事です。また購入する際に、その服が作られている背景を知ることも重要だと感じます。素敵なデザインの服なんて安く買おうと思えば今はいくらでも探すことができます。しかし、そろそろ自分が着るものくらい 何から、どうやって、誰が 作っているか、考えませんか?その安かったからと買った服、本当に大切にしますか?ものが溢れている時代だからこそ、自分に何が必要で、何も大切にしたいか、消費者の視点も問われてきます。

*サンプル*

今回、ヴィーガンライフスタイルのオンラインストアを運営しているラヴィストトーキョー様から、アップルスキンピニャテックス のサンプルを貸していただくことができました。実際に見て触ってみた感想を載せていますので、興味がある方はぜひ見てみてください。サンプルを貸し出してくださったラヴィストトーキョー、および唐沢様には心より感謝申し上げます。

LOVST-TOKYO

僕たちの原点は、「愛をもって、ヴィーガンファーストを提案していくこと(“LO”VE + “V”EGAN + FIR …

*繊維会社の取り組み*

 最後にサステナブルなファッションに対して様々な取り組みを行っているタキヒヨーさんを紹介します。タキヒヨーは名古屋市にある繊維商社です。アップサイクルに力を大きく入れており、海外でも注目されています。主な事業として、ファッション業界の廃棄物問題に対して、繊維会社として次世代に引き継ぐことができるリサイクルシステムの構築を行っています。生産過程で出た廃棄物を、工場と連携し新たな繊維として生まれ変わらせています。再生繊維はその長さが短く紡糸が困難なため、合成繊維を追加し、糸を紡ぐことが多いです。しかし、タキヒヨーではは合成繊維を含まないため、堆肥化可能になり、マイクロプラスチックが海洋や淡水資源に侵入するのを防ぎます。またそれでも出てしまう廃棄物はコーヒー農家に寄付され、堆肥としてグアテマラの高地で特製コーヒーを栽培するために使われています。また、染料も使用しておらず、すべての色は収集された廃棄物の元の色そのままを使用しています。1年間だけで834,474ポンドの廃棄物をリサイクルし、75億7700万リットルの水、80万ポンドの有毒化学物質、757百万ポンドの二酸化炭素を節約することで、大気への侵入を防ぎました。このように、繊維業界でもサステナブルに対する様々な取り組みが行われています。

タキヒヨー株式会社

タキヒヨー株式会社の公式サイトです。ファッション流通業界において有数のリーディングカンパニー。1751年創業のタキヒヨーはこれからもファッションを通じお客さまに夢と感動を提供し続けてまいります。

(執筆者:森千紘)

前の記事

廃棄物が素材に

次の記事

可能性ひろがる食