新技術で広がる木材の可能性
サステナブル素材として注目される木材
近年、サステナブル(持続可能)志向の商品やプロジェクトが世の中に多く見受けられるようになりました。そのような風潮のなかで、『木材』も注目を集めています。
木材は、もとより環境にやさしい持続可能な循環資源であるだけでなく、捨てる部分がないエコ素材です。だからこそ木材は、古くから人々の暮らしに活用されてきたともいえます。国土の7割を森林が占め、先進国のなかで世界第3位にランクインするほどの森林大国である日本は、四季などの豊かな地理的環境に恵まれて世界的にも良質な木材が成育します。
しかし、昨今では海外からの廉価な輸入木材や林業従事者の高齢化などにより、国内林業は危機的な衰退状況にあります。「木材が売れない」→「山の手入れができない」→「売り物になる木を育てられない」という悪循環に陥っているだけでなく、手入れが行き届かなくなって生態系が荒れ果てた山林は、土砂災害や野生動物による農作物被害という二次被害を生み出しています。
木材は、天然資源の乏しい日本が唯一、豊富に有する資源です。また、和風建築をはじめとする伝統技術や文化は、木材と共に歩んできた日本の長い歴史の集大成であり、現代でも高い価値を有しています。
このように、改めて注目してみると高いポテンシャルを秘めていることが分かる日本の森林資源ですが、今日ではほとんど活用されずに放置されているというのが現状です。これを非常にもったいなく感じると同時に危機感を抱いた私は、現代の様々な最新技術によって木材の新たな活用法が生まれないか、それによって国内林業や山林の健全化につながるアイデアが生まれないかを模索することにしました。
まず初めにリサーチを行い、「サステナブル志向か」「従来と異なる新しい活用法か」「木材の性質を活かしているか」という三つのポイントを評価基準として設定。その結果、現代の技術が可能にする木材の新たな活用法は、大きく三つの系統に分類されることが分かりました。
三つの木材活用法
1, 他素材と混合する
スギ木粉と水だけで塗料開発
原材料はスギ木粉と水だけ!その名も「木質塗料」。汎用性があり、断熱性が高く、建物の壁や屋根などに塗ることで暑さ対策用の塗料として活用できるほか、脱プラスチックの塗料としても期待されています。安全性が高く、吸水性や吸油性も良いため、他の材料と混ぜることで幅広い使い方が可能となります。スギの端材など使途があまりない部分を活用することで森林資源を有効に活用できるうえ、森林所有者の収入増にもつながるでしょう。木の色合いが残っていて非常に使い勝手がよく、廃棄物を利用しているため製造コストも抑えられます。
〈引用元/岸田木材株式会社〉https://kishidamokuzai.co.jp/topics/598
木の紙
職人の手によって0.1mm以下の薄さにスライスされた木材の裏地に紙を貼り合わせた木の紙。書く、描く、折る、曲げる、切る、組み立てる、型で抜くなどの加工が可能で、高い汎用性を実現しています。レーザープリンターやインクジェットプリンターに対応した紙種まで取り扱っており、実に幅広いラインナップが充実。一枚一枚の紙色や木目が異なっている点などは木材ならではの魅力と言えます。地域ごとの木材を使用すれば必然的に他社と差別化したご当地商品が生まれるので、地方創生にもつながりそうです。
〈引用元/株式会社クレコ・ラボ〉https://www.kinomeishi.com/page/17
がれきと廃木材を使ったコンクリート
がれきと廃木材を粉砕、混合、加熱圧縮成形することで、土木や建築材料として再利用するというリサイクルコンクリート。木材由来の新成分「リグニン」の働きにより、従来のコンクリートよりも数倍高い曲げ強度が発揮されるとのこと。がれきの価値を高め、さまざまな植物性資源を有効活用し、循環型社会の実現に貢献することが見込まれています。
〈引用元/東京大学〉https://ideasforgood.jp/2020/03/10/tokyo-recycled-concrete/
乾けば木になる不思議な絵の具
玉川大学芸術学部と北星鉛筆株式会社の共同開発によってうまれた、鉛筆のおがくずを使用したリサイクル絵の具。木粉を原料とした世界初の木の絵具で、人体にも環境にもやさしい商品です。同社から販売されている「木の粘土」などのシリーズ商品とも併用すれば、今までにない造形表現が広がりそうです。そして、この木の絵の具の最大の魅力は「乾くと絵が木のようになる」ということ。これを木彩画と名づけ、新たなジャンルを確立したという点でも大変興味深いプロジェクトです。
〈引用元/循環型鉛筆産業システム 木のリサイクル〉http://www.kitaboshi.co.jp/risaikuru/index3.htm
〈引用元/ソーシャルグッドなお買い物ガイド バイコット〉http://buycott.me/report/000036.html
2, 特殊処理を施す
木材を宇宙で使える資材に
将来の有人宇宙探査を見据える宇宙業界でも、恒久的に宇宙進出を継続するための資源確保策として木材が注目されているとのこと!日本初の船外活動宇宙飛行士:土井隆雄さんをはじめとした諸所の研究により、木材の代表的な欠点である「燃える・狂う・腐る」といった性質を熱変換処理によって完全に克服する可能性が見出されつつあります。また、真空環境では木質の劣化が起きず安定した弾性特性を保持するという研究結果もあり、大きな可能性が感じられます。
〈引用元/京都大学〉https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/50994/3/KJ00004531291.pdf
〈引用元/土井隆雄さんら研究チーム〉http://www.mjkk.or.jp/wp-content/uploads/2018/08/1808kyoto_uchu.pdf
3, 木材由来成分を活かす
木を飲む
まず初めに「木は飲める」という事実!静岡理工科大学の志村史夫名誉教授の発案により開発された食用木粉パウダー「スーパーウッドパウダー」を利用し、お茶の生産地として有名な静岡県だからこその商品が誕生しました。スーパーウッドパウダーは「おが粉」を細粒化し、煮沸などの工程を経て精製されます。原料の木材は、静岡県産の良質な木材を使用し、2年間かけて自然乾燥させるなど品質に細心の注意を払ってつくられています。食物繊維が100%であるため様々な健康効果が期待されており、お通じやダイエットに悩む人におすすめとのこと。なかでも花粉症軽減効果があるのには驚き!これであなたも、毎年悩まされている花粉症が克服できるかも?
〈引用元/樽脇園〉https://taruwaki-en.jimdo.com/樽脇園のお茶のこと/その他のお茶/おがっティー/
木を食べる
まず初めに「木は食べられる」という事実!水産資源の乱獲や農業関係者の高齢化など、食料をめぐる産業基盤は近年不安定になりつつあります。そのなかで、地球のため、未来のため、持続可能な食が考えられました。それは、間伐材を活用して「木のフルコース」なる食事を実現したというもの。この取り組みは、さきほど紹介した「スーパーウッドパウダー」を応用した一例として、大きな可能性を感じさせてくれます。
木のパウダーを使った「樹皮のスナック」や「木と土のコンソメ」、木の香りをつけた「パウンドケーキ」などが作られました。「木は食べられる」という事実の周知と同時に、間伐材消費というソリューションも提示しています。
〈引用元/株式会社ONESTORY〉https://www.onestory-media.jp/post/?id=2949
木のお酒
森林総合研究所が研究開発中の「木の風味を味わうお酒」です。樽酒のように、お酒に木の香りをつけるという手法は今までにもありましたが、木材そのものを原料にするお酒はありませんでした。樹木細胞の細胞壁が硬く、薬剤を使わないかぎり分解発酵ができないという難関の壁があったためです。これに対して研究チームは、樹皮を取り除いた木材を天然水に漬けたあと、直径2ミリのセラミック球とともにミキサーにかけることで、薬品を使わずに細胞壁を粉砕するという技術を開発。酵母やタンクでの発酵などを経て、度数約15%の透明な酒を完成させることに成功しました。ほのかに甘い「サクラ酒」、ブランデーに似た「シラカンバ酒」、ドライな味わいの「スギ酒」が実現。一般に流通させるまでには安全性の確認や免許取得が必要なため引き続き研究が行われていますが、一日も早い商品化を目指しているそうです。商品化のあかつきには世界初の「木のお酒」となります。
〈引用元/森林総合研究所〉https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2018/20180426/index.html
〈引用元/朝日新聞記事〉https://www.asahi.com/articles/ASL4V5FXKL4VUJHB00G.html
木と共に暮らす
従来の木材は主に家具や建材に使われてきましたが、近年では、その他のまったく新しい活用法が探究されています。それらの取り組みに共通しているのは、日常生活に大きく寄り添った需要性を重視している点です。
もともと木材は家具職人や大工、製材業者など専門職の人々が扱う大きな素材であり、一般消費者にとって身近な素材ではありませんでした。消費者は、木造建築の室内の温もり、ヒノキ風呂の香り、木製家具の装飾の美しさなど、完成された製品を通して木材の恩恵を享受していたのです。やがて国内林業の衰退が始まりますが、それは一般消費者の木材離れでもありました。コンクリート製の現代住宅が普及したことで日本古来の木造住宅の新築件数は少なくなり、わざわざ高価な国産材や伝統工芸にこだわらずとも、安価な輸入木材やシンプルな現代的デザインで充分に消費者のニーズは満たされたのです。
つまり、国内林業は時代の波に乗り遅れてしまいました。ですが、それは一概に国内林業の柔軟性の無さを意味するものではなく、長年のあいだ木材の用途が家具や建材に限られていたため、発想的にも技術的にもすぐには大きな変革ができなかったという側面があります。
そんななか、近年になってサステナブル志向が注目され始め、ようやく既存の概念を打ち破るアイデアと最新技術を応用した木材の活用法拡大の模索が活発になってきました。こうした模索の数々は、従来の木材の用途から逸脱した新しい発想を打ち出しているため、自然とユニークなアイデアが多くなっています。木材業界としては大変おもしろい時代にさしかかっているといえるのではないでしょうか。「高品質」はもちろんのこと、「おもしろい」「欲しい」「体験してみたい」と思わせるキャッチーな魅力を持つアイデアが続々と登場しています。いま一度、時代に取り残された感があった木材の価値を見直すことで、今後の未来社会の姿が垣間見えるかもしれません。「ピンチをチャンスに」していきたいところです。
(筆者 大西 研介)
※本記事に掲載している画像・文章は、引用元の確認をいただいたうえで掲載しています。